無症状の方が検診の胸部レントゲンで異常を指摘されたらまず胸部CT検査を行います。ほとんどの患者さんでは異常は見つかりません。一部の患者さんでは昔に感染した肺結核の名残(陳旧性肺結核)、昔にかかった肺炎の痕(炎症性瘢痕と言います)、肺気腫、非結核性抗酸菌症、気管支拡張症、間質性肺炎、縦隔腫瘍などの良性の病気がみつかります。多くの場合、治療は必要なく胸部CTかレントゲンで定期的に検査して追跡するだけとなります。間質性肺炎は癌ではありませんが、増悪して在宅酸素や死に至る場合もあるので決して侮れない病気です。縦隔腫瘍の一部は手術が必要です。
一方、悪性の病気の肺癌や中皮腫が見つかることもしばしばあります。当院では年間20人の肺癌が見つかっており、ほとんどは早期です。
当院では年間10~15人ほどの肺癌が毎年見つかります。2004年CT装置導入から2020年までの16年間で約200人が見つかりました。
肺癌の診断でもっとも問題になるのは、癌かどうか判断が難しい非常に小さな(5~10mm)病変を見つけた時の対処です。患者さんは肺に病気が見つかると不安になりその場で専門医の紹介を希望しますが、癌かどうかわからない状態で専門医を受診しても、結局経過観察になります。
小さな病変は一定期間CT検査で追跡しないと癌かどうかわからないことがよくあります。3ヶ月から半年追跡したら消えてしまうものもあれば、長いものでは10年も追跡してようやく早期癌として手術になることもあります。当院が早期肺癌の発見や前癌病変(癌になる前の状態)の経過観察が可能な理由は、愛知医科大学や愛知県がんセンターのカンファレンスに通ってCTによる肺癌診断の知識を蓄積してきたからです。手術後には病期や病理診断、抗癌剤治療の情報をもとに病診連携を深めています。
当院では、肺の小さな病変を経過観察する上で、以下の5つのポイントを重視しています。
1. 大きさ
2. 病変の形
3. 病変の色(濃度) 非常に淡い影、濃い影、部分的に濃い影など
4. 病変と胸膜(肺の膜)の距離や胸膜の変化
5. 追跡期間と検査の間隔
数ヶ月に一度、当院で経験した肺癌症例を実際のCT画像で解説していきます。
〈実際の症例〉
当院のCTで見つかる年間20例ほどで肺癌のほとんどは10 mm以下の早期肺癌か前癌病変(細胞が癌化する前の状態)です。CT機器の精度が上がったことやわたしたちの読影力が上がるにつれて小さなサイズの肺癌も数多く見つかるようになりました。
CTの画像を少し詳しく解説すると、病変が非常に淡いものであれば(図1)、6~12ヶ月に1回CTを行いながら経過観察します。この病変の60~70%は経過観察中に消えてしまい、癌ではなく良性の病変です。残りの30~40%が将来癌になって手術が必要となる病変(図2)です。
図1.図2.
CTで定期的に経過観察をして病変が次第に大きくなって15 mmになった時点で呼吸器外科へ紹介します。20 mmになると転移が始まる可能性があるからです。ただし、この病変が胸膜(肺を取り囲む薄い膜)に近かったり(図3)、胸膜にくっついている場合は肺の外に癌細胞が早期に漏れ出る危険があるので早めに紹介します。淡い病変は年単位でゆっくり進行します。
図3.
一方、CTで病変が濃い場合なら(図4)進行が早い癌が多いので、1~3ヶ月の短い期間にCTを再検査して、少しでもサイズが大きくなればすぐに呼吸器外科へ紹介となります。
図4.
経過観察の期間は見つかった時点の病変の性状やサイズによってさまざまです。長い患者さんでは見つかってから手術までに10年も観察し続けてやっと手術になった場合もありますし、図4の患者さんでは1ヶ月以内に手術となりました。
多くの場合、すぐに手術するのではなく定期的なCT検査によって病変の大きさ、形、濃度変化などを経過観察することが一番重要です。CTで10 mm以下の淡い病変が見つかった場合では病期が0期に相当しますので、5年生存率は97%となります。