灰本クリニック

認知症が減り始めている!?

投稿日時:2019年01月10日

灰本クリニック 灰本 元

 最近読んだ論文によるとスウェーデンの全入院患者を30年間追跡すると、2011年頃から認知症が減り始めているという、驚く結果が書いてあった。30年間追跡したのべ人数は4500万人、そのうち認知症の診断数は150万人に達する。スウェーデンの現在の人口が1000万人だから、論文に記載がある通りまさに全国民的な調査である。

 70歳以上でもっとも低下しているのは、70-74歳の高齢者のなかでも比較的若い世代である。これはどのように考えたらよいだろうか? 大規模関節研究を専門とする名大の疫学専門家に問うたところ、「認知症発症の危険因子は脳心血管障害の危険因子(喫煙、高血圧、高コレステロール、糖尿病)と重なるので、そのような危険因子が薬の服薬や生活習慣の改善によって改善すれば、当然発症リスクは減ってくる」という返事であった。

 わたしは開業して30年近くなる。およそ30年前にメバロチンが発売となり高コレステロール血症の薬物治療が開始になったが、当時は効果が弱く薬代も高価だったのでそれほど多くの患者に使っていなかった。しかし、ストロングスタチンが発売になった15年前からは多くの患者に使うようになり、5年前のジェネリックの登場後からは徹底的に下げるようになって(とくに糖尿病では)処方数は著しく増えている。その頃から、どこまで下げれば心筋梗塞が予防できるか、目標値がはっきりしてきた。

 一方、高血圧をみると30年前はアダラートが全盛の時代であり、そこそこ血圧は下がるようになった。20年前のアムロジン、15年前のARB(とくにオルメテック)の登場以降、ナトリックスやアムロジンと組み合わせると当院の患者では家庭血圧測定で早朝血圧は夏で94%、冬で84%を135mmHg未満に下げることが可能となってきた。それを背景に当院では脳卒中で寝たきりになる患者はほぼ発症しなくなった。

 日本人の糖尿病では過去10年間に、主にDPP4阻害剤の効果によりHbA1cは-0.4%下がっている。当院では糖質制限食を併用しているので、わたしたちの臨床研究によると-1.0%も下がっている。また、喫煙率もこの10年間では相当に下がっている。

 高血圧、高コレステロール血症がしっかりコントロールできるようになったのは最近の10-15年のことであり、これはスウェーデンでも日本でもそれほど年代的に違いはないだろう。70-75歳でもっとも発症率が減った人たちは10-15年前には55歳~65歳であったはずだ。その頃からしっかり危険因子を投薬によって改善すると、脳心血管障害だけでなく認知症も予防できるかもしれない、というのが今回の論文から読み取れる。

 わたしたちがすべきは徹底的に血圧とコレステロールをコントロールしたうえで、ゆるやかな糖質制限食と少量のメトフォルミン、DPP4阻害薬をつかって糖尿病のHbA1cを1%下げることが、すなわち認知症予防につながると信じたい。日本での認知症発症率の変化を早く知りたいところである。

 

論文の和訳

認知症の30年間の傾向:スウェーデンの入院患者カルテの全国的な住民研究
Thirty-year trends in dementia: a nationwide population study of swedish inpatient records. Dominika seblova1 et al., Clinical Epidemiology 2018:10 1679-1693

背景:最近の認知症の流行の持続的な増加は年齢・性傾向の安定度に依存している。しかし、最近の証拠は減少あるいは安定した傾向を示唆している。この研究の目的はスウェーデンの1987年から2016年までの高齢者認知症の実社会における変化を、入院患者における認知症の診断の年齢・性別特異的な頻度を計算することによって評価することを目的とした。

方法:65歳以上のすべてのスウェーデン国民を1987年から2016年まで追跡した。年齢、性別、教育で階層化した認知症の発症率を毎年全国患者記録を使って算出した。入院患者で認知症と診断された1年間の増加におけるハザード比を不連続時間ロジステックモデルを使って算出した。

結果:認知症の発症は、とくに85歳以上の発症の増加の後、最近の5年間では減り始めている。2011年以降、毎年の増加は入院患者の認知症診断のより低いハザード比と関係している。その低下は70-74歳でその程度は最高値に達し(-5.5%)、その次に75-79歳(-4.5%)と80-84歳(-4.0%)となっている。その低下は90歳までの男女とすべての教育レベルで存在した。年齢は認知症発症のレベルと関係があったが、その傾向は年齢群で異なっていた。教育による勾配が観察された。大卒の高齢者では最も認知症率は低かった。しかし、年代とともに低下傾向は性別あるいは教育レベル別に基本的な差はなかった。

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結論:私たちの結果は認知症の発症が減り始めているかもしれない証拠を与えている。この結果は少なくとも入院患者では認知症を持つ新患者の数は将来的に減るかもしれない。


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