“肥満パラドックス”を知っていますか? -その1-

記載者:NS  公開日時:2018年03月05日

1。肥満パラドックスとは

 パラドックスとは矛盾していることを意味しています。肥満パラドックスとは、やせた人も太った人も病気になりやすいが、生き残るのは太った人でやせた人は死亡リスクが高くなるという考え方です。わかりやすく言うと、肥満の人は病気にはなりやすいが、いったん病気になっても耐える力があってなかなか死なないという意味になります。実際にそんなことが起こるのでしょうか?

 肥満パラドックスは「肥満はやせより長生き」という新しい考え方なので「肥満はだめ、やせなさい」というメタボリック症候群と対極にあります。肥満パラドックスは医師の間では少しずつ浸透し始めていますが、一般の方々にはまだほとんど知られていません。この肥満パラドックスという考え方は、今後世界を席巻して新しい医学の常識となるにちがいありません。

2。肥満パラドックスの例

 糖尿病では肥満が長生きか、やせが長生きか?という質問を医師をも含めて100人に問うと、ほぼ全員が「やせに決まっている」と答えることでしょう。ところが、人体はそれほど簡単ではありません。
Figure 2 HP.png
 図は韓国で行われた130万人という大規模な住民を9年間という長期間追跡した研究結果で、2017年12月に発表になりました(Clinical Epidemiology 2017:9 667–678)。つい、3か月前のことです。これほど大規模な研究は世界的にも例がありません。この研究の目的は①糖尿病の発症と体重の関係、②糖尿病患者の体重と死亡の関係です。
 体重は身長の影響を大きく受けるので、肥満を世界的に比べるときにBMI(body mass index、肥満指数)を使います。BMI=体重kg÷(身長m)÷(身長m)で計算します。私は体重63kg、身長165cmなのでBMIは23.1となります。
 グラフはBMI別に9年後の糖尿病発症リスク(糖尿病のなりやすさ)を見たものです。130万人の中から9年間に10万人の糖尿病が発症しました。BMI 16~18.4の最もやせた人からBMIが増えるほど右肩上がりに発症リスクは直線的に上昇していきます。その結果、BMI 32.5~34.9の肥満(私の身長で90kg以上の人)はBMI 16.0~18.4の痩せた人(私の身長で50kg以下の人)に比べておよそ6~10倍も糖尿病発症リスクは上昇しています。
 これは常識的な範囲で誰もが予想できる結果です。ところが、次に糖尿病を発症した10万人だけを追跡してBMIと死亡リスクの関係を見た結果が次のグラフです。
Figure 3 HP.png 
 グラフは先ほどのグラフとは真逆で右肩下がりとなっています。BMI 30以上の肥満の糖尿病患者の死亡リスクを1.0とするとBMI 16.0~18.4のやせた糖尿病患者の死亡リスクは1.5となり、50%も死亡が増えているのです。

3。やせは早死にしやすく、肥満は長生き

 この研究の結果は肥満パラドックスの本質をきわめてよく示しています。つまり、肥満は糖尿病になりやすいが、糖尿病になった患者を追跡すると早死にするのはやせた患者であって肥満の患者は長生きするのです。
 肥満パラドックスについては1999年頃からおびただしい数の研究論文が発表されています。そして、驚くべきことに肥満パラドックスは急性肺炎、透析、肺気腫、心不全、心筋梗塞、癌、脳血管障害などほとんどの急性および慢性の致死的な疾患で成立することが次々に明らかになっていきました。もっとも研究が遅れたのは糖尿病領域です。糖尿病だけはきっと肥満が早死にするという先入観からか、肥満パラドックスという概念が登場してから20年もかかって最後になってしまいました。この韓国からの研究成果は私にとっては「糖尿病よ、おまえもか」と感慨深いものがあります。
 なぜこのようなメタボリック症候群を真っ向から否定する肥満パラドックスが登場したのでしょうか。それを知ることは、医学が陥りやすい弱点や医学研究はどのように進歩していくのかを知ることでもあります。次回から数回にわたって詳しく解説していきます。

 

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