患者背景:70代 男性 当院通院歴、既往歴はありません。喫煙歴:20歳~60歳 20本/日
発見のきっかけ:長引く咳で当院を受診した患者さんです。胸部レントゲンを撮影した際に右肺の下方にすりガラス状の陰影(ガラスが淡く曇った様な影)が見られました。胸部CTを撮影したところすりガラス陰影とは別に偶然に小結節影(粒状の塊)が見つかり経過観察となりました。
CT画像の所見と経過:(図1)青い矢印に示した右肺の一番下、背中側にすりガラス陰影が写っています。すりガラス陰影は第1に間質性肺炎という特殊な肺炎を疑う所見ですが、図1→図2→図3と7ヶ月の経過でほとんど変化がありません。一方で、そのすりガラス陰影の近傍にオレンジ色の◯で囲んだ部位に、内部が密に詰まった辺縁に小さなトゲがあるように見える小結節影(粒状の塊)があります。経過観察した過程で14mm(図1)→ 16mm(図2)→ 19mm(図3)と少しずつ増大しています。青い矢印のすりガラス陰影が間質性肺炎であれば、間質性肺炎を背景とする肺癌の併発することは一般的にもよく知られています。この結節影は肺癌を否定できないと考え総合病院の呼吸器外科へ紹介となりました。
その後の経過: 総合病院では、PETや気管支内視鏡、その他の検査で肺癌を完全に否定できませんでした。外科、内科、放射線科が集まる合同カンファレンス(症例検討会)でも全会一致で外科切除すべきとの結論にいたりました。患者さんにも病状を説明した上で手術に同意、診断と治療を兼ねた外科手術を行いました。
病理診断(切除した結節を顕微鏡で見る組織診断):間質性肺炎
悪性ではない
解説とまとめ:本症例は、もうしばらく経過観察すれば縮小または消失した可能性もあります。しかし、背景に肺癌を合併しやすい間質性肺炎が存在したこと、結節影の内部はしっかり詰まった充実性で周囲は小さなトゲが覆っているように見えることから肺癌が強く疑われました。経過観察して進行してしまい手術の機会を逸する可能性もあったため、手術の判断は間違っていないと考えますが、手術後の診断は良性でした。背景の肺に間質性肺炎などの病変があると、肺癌の診断は1段階難しくなります。専門医のカンファレンスでも判断が困難な非常に難しい症例でした。