ゆるやかな糖質制限食のガイドライン発刊

ガイドライン発刊にあたり

 私たちは現在まで投稿中を含めて8編のローカーボ食(ゆるやかな糖質制限食)に関する英論文を発表してきました。2型糖尿病患者の最大の死因は癌であって脳心血管障害と言えない時代となり、たった一回の低血糖発作が1.5年後の総死亡リスクや認知症発症を2倍に増やすという現実を突きつけられると糖尿病治療のあり方も根本的に変わらざるをえません。HbA1cを下げるより低血糖、癌、認知症の予防が優先される時代となったのです。

 糖質制限食によるHbA1c、血清脂質、体重など改善、糖尿病薬の減量効果などの点でカロリー制限食より優れていることは多くのメタアナリシスで証明されています。とはいっても、厳しく制限すると総死亡リスク、とくに癌の発症や死亡リスクが上昇することも大規模コホート研究のメタアナリシスから確実です。

 糖質制限食を栄養指導という臨床的な視点から見ると、私たちの2014年から2015年の臨床研究によって治療前の糖質摂取量からどのくらい糖質摂取量を減らすとどのくらいHbA1c、体重や内臓脂肪を減らせるかについて具体的な数字を示せるようになりました。そして、糖質摂取量を制限すればするほどHbA1cや内臓脂肪(男性のみ)は下がりますが、体重はがんばって制限したからといってそれに見合うほど下がりません。体重の制御システムは血糖値よりは遥かに複雑なのです。

 これらの臨床研究はゆるやかな糖質制限食の特性を明らかにし、長期に継続しても安全でもっとも効果的な効果を得られるかを目的としてきました。一方、海外のほとんどのローカーボ研究は未だにカロリー制限食との比較に明け暮れているので、私たちのような糖質制限食を臨床応用するためのさまざまな課題の解決というreal-worldの視点は希薄です。

 このガイドラインの主要なテーマは、①低血糖を発現する可能性がある糖尿病薬をできるだけ減らす、②総死亡危険度を上げない体重維持、③患者個別のHbA1cの重症度に応じて糖質摂取量を3段階で制限、④治療前後の糖質摂取量の差に注目する、⑤総死亡に関する大規模コホート研究の成果をふんだんに取り入れたなどで、従来のガイドラインとは趣がずいぶん異なっています。

 巻頭言には生命の進化、糖尿病の歴史、さらに糖質制限食の登場とその課題などを俯瞰的に論じ、専門家でなくともおもしろく読んでもらえると思うので巻頭言と目次だけは公開することにした。全体として60ページのブックレットですから、診察室や栄養相談室の机に置いても邪魔になりません。2008年以降の110編の糖尿病周辺およびローカーボに関する引用文献だけでも役に立ちます。値段は700円。糖尿病、肥満、メタボリック症候群にかかわる多くの医師、管理栄養士、薬剤師、看護師、製薬メーカーなどの方々に読んでいただければ本望です。

2016年 吉日

灰本クリニック 院長
灰本 元

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